産婦人科医やっきーのトンデモ医療観察記 ⑪
今も昔も、反ワクチンの言説ってだいたい同じ(産婦人科医やっきー先生と知る反ワクチンビジネス 第三回)
今回はやっきー反ワクチン三部作の最終回「今も昔も、反ワクチンの言説ってだいたい同じ」をお届けします。
第1回「反ワクチンビジネスの歴史」
第2回「反ワクチンビジネスで金儲けをする方法」
をご覧になっていない方は、よければそちらもどうぞ。
さて、反ワクチン論者がよく唱える主張というと、第一回の記事で解説した「牛痘を接種したら牛になる」のような古めかしいデマから、
最近の新型コロナウイルスワクチンの「マイクロチップが入っていて個人の行動が管理される」「5Gを受信して行動が操られる」などのトンチキな陰謀論まで実に多種多様なものが存在し、その内容も現代のテクノロジーにあわせてアップデートされているように見えるかもしれません。
しかし、それは大きな誤解です。
子どもの悪口に語彙(ごい)が少ないのと同様、反ワクチンが訴える言説にも大したバリエーションはありません。
そこで、天然痘の時代から現代の新型コロナ・HPVワクチン等に至るまでに存在する、様々なワクチンデマを6つのパターンに分類して総括してみようではありませんか。
(1)副反応の過大解釈

Photo:PIXTA
ワクチンは「抗原情報を注射して免疫反応を惹起(じゃっき)する」という仕組み上、多少の個人差やワクチンの種類による差はあるものの、何らかの副反応を避けて通ることはできません。
注射したところが少し痛いかな?といった軽いものから、筋肉痛のような症状で腕が上がりにくい、発熱して体がだるいといった強めの副反応、
そしてごくまれながらアナフィラキシーや心筋炎といった重篤(じゅうとく)な副反応まで存在します。それ自体は否定しません。
しかし、そうした副反応を、さも「高い確率で起こる」かのように錯覚させ、場合によっては「立証されていない副反応をも起きるように感じさせる」のが、この(1)「副反応の過大解釈」パターンです。
記憶に新しいのは、2021~2022年頃に流行した「コロナワクチンを打ったら〇年後に死ぬ」というデマですね。これも、実際にはコロナワクチンを打った群のほうが統計的に全死亡率が低かったことが、さまざまなデータにより示されているのですが。(参考)
その他の有名どころとしては、「MMRワクチン(麻疹・風疹・おたふくかぜワクチン)の接種が自閉症を引き起こす」と主張したイギリスの医師、アンドリュー・ウェイクフィールドの言説があります。
1998年にウェイクフィールドが提出した同論文は小児科医学に激震を起こし、数多くのワクチン忌避者を生み出しました。
ちなみに、のちにウェイクフィールドはワクチン訴訟に関係する弁護士から資金提供を受けていたことや、MMRワクチンに競合する麻疹単独ワクチンの開発に携わっていたことが発覚し、研究自体にも様々な不正が指摘されたことから論文は撤回され、ウェイクフィールドの医師免許も剥奪(はくだつ)されました。現場からは以上です。
(2)身体の改変

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ある意味、ワクチンデマの始祖にあたる概念がこの「身体の改変」です。
始祖と言うとなんか崇高(すうこう)なものに感じるかもしれませんが、「いっちゃん古臭いデマ」と言い換えてもOKです。
「身体の改変」も、広く捉えれば「副反応の過大解釈」の仲間ではあるのですが、特にセンセーショナルな扱いをされやすいので個別で立項しました。
天然痘ワクチン(牛痘)が発明された当初、一部の反ワクチン論者は「牛からできたものを注射なんてしたら牛になる」と唱えました。まあ、実際に牛になった人は歴史上いまだかつていないのですが。
あと、この論理がもし通用するなら、ネズミやイタチのような「それ単体では食用に向かないけれど繁殖力が高い哺乳類」に片っ端から牛のエキスを注射すれば牛肉が量産し放題ですね。畜産の大幅なコストカットが期待できるので、これからの研究の進歩に期待しましょう。え?そんな研究は全く進んでないって?
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そして、これは現代の新型コロナウイルスワクチンのデマにも共通しています。
次世代mRNAワクチンこと「レプリコンワクチン」の接種によって発生する……と反ワクチン論者が唱えまくった謎の概念「シェディング※1」です。反ワクチンの方々も飽きたのか、最近はあんまりシェディングと言わなくなりましたが。
※1 編集部注:本来は「ウイルスに感染した人の体内から、ウイルスが体外へ排出される現象」を指す医学用語ですが、ここでは「ワクチン接種者の呼気や汗からワクチン成分が周囲に伝染し、他人に悪影響を与える」という科学的根拠のない誤情報を指しています。生きたウイルスを含まないワクチンで、そのような現象が起こることはありません。
レプリコンワクチンには、mRNAに抗原となるタンパクだけでなく、細胞内でそれを増幅させるための「レプリカーゼ」の情報もコードしてあります。これによって少量のmRNAでも効率よく免疫を獲得できるというわけです。
ただ、それをどう解釈したのかは謎ですが、「レプリコンワクチンを接種した人間は歩く感染源のようになる」と主張する人間がいました。これが世に言う「間違ったシェディング」です。
これはmRNAワクチン全般にいえる反論ですが、そもそも当該のmRNAに感染性は無いのでワクチンをどう頑張ってこねくり回しても感染源になりようがなく、
例えるなら刀の鞘だけをコレクションしてる人に「そんなの集めて誰かを刺すつもりか!」とイチャモンを付けてるみたいなもんです。
ともかく、こうした「ワクチンによって身体の構造や機能が改変されている」という観点から見ると、「牛痘で牛になる」論も「レプリコンワクチンでシェディング」論も似たようなものと言えるでしょう。
科学的整合性はともかくとして、反ワクチン論者からすれば「そんなふうになっちゃうの?」と忌避感を植えつけることができればそれでもう勝ちなのです。
(3)無効または増悪

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次のパターンは「ワクチンなんて効かない」論です。こじらせると「ワクチン打ったらもっとひどくなる」論に展開することもあります。
このパターンで頻出する二大巨頭が、「コロナワクチンを打っても感染したので無意味」と「HPVワクチンを打っても子宮頸がん検診が要るんだから無意味」という主張ですね。
コロナワクチンは感染を100%防ぐ効果があるわけではなく、重症化や入院・死亡などのアウトカムを改善させるものですし、HPVワクチンも子宮頸がんの原因となる型のうち約90%をカバーするもの(9価HPVワクチンの場合)であり、すでに感染したHPVは治療できないため、子宮頸がん検診は必要なのです。
このように、コロナやHPVのワクチンについてきちんと論じようと思うと、こういったグラデーションの効果を理解する必要がありますので、頭のわる…ゴホン、物事をなるべくシンプルに捉えることを良しとする方々にとってはなかなか受け入れがたいものがあります。
よって、物事をなるべくシンプルに捉えることを良しとする方々は「ワクチン打ったのに感染した!コロナワクチンに意味はない!」と、ひどく単純な考え方をするわけです。
(4)疾患の軽視

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「そもそもあんな感染症にかかったところで大したことない」という主張です。
2020~2021年頃の新型コロナ流行期、コロナなんてただの風邪だという意見が掃いて捨てるほどあふれていましたが、新型コロナは報告された死者数だけでも全世界で700万人、報告漏れや医療逼迫(ひっぱく)に伴う間接死も含めると2,200万人にのぼると推計される、人類史に名を残す新興感染症です。どこからどう見てもただの風邪とは言えません。(参考)
そういうタイプは仮にコロナに感染し、重篤な症状を起こしたとしても「コロナはマジでしんどかった」と大っぴらに言えませんし、言うわけにはいきません。
意中の女性に告白するも振られてしまい、ちげーし!あんなやつ最初から大して好きじゃなかったし!と精一杯強がる男子中学生のようなわびしさに涙を禁じ得ませんが、早く自分の気持ちに素直になってほしいものです。それでこそ大人の階段をのぼるシンデレラです。
また、「疾患の軽視」がやや変化したものとして、「昔は近所に麻疹にかかった人がいたら、積極的にうつしてもらいに行って免疫をつけていたものだ」「ワクチンに頼るべきではない」などと主張する、自然免疫礼賛タイプに該当するお年寄りもいます。
現代医学でも麻疹罹患(りかん)時の死亡率は0.1~0.3%、後遺症発症率も0.1%ほどと無視できないほど高いのに比べ、麻疹ワクチンによって重篤な副作用が出る確率は調査が困難なレベルで低いので、私なら絶対にワクチンで身を守ったほうが良いと思いますが。
とはいえ、そのような主張をするお年寄りは日本の伝統文化を守る宝なので、ぜひともそのへんのカタツムリを生食するなどして強い免疫をつけてほしいと思います。私はそういったお年寄りを心より応援しております。
(5)自由への侵害

「国家によってワクチンを強制させるのは自由の侵害に他ならない」とする主張です。典型的な論点ずらしです。
ほとんどの場合「リスクとリターンを天秤にかけた上で、ワクチン接種にはメリットがあるよ」という話をしているはずなので、自己決定権の話なんぞ全くしていないのですが。
というか現代の日本という国において、同意なしにワクチンを強制接種させる制度なんて最初からありはしないのですが。
まあ、自由意思に基づいてワクチンを打たずに勝手に重症化する分には好きにすれば良いと個人的には思っているものの、
ワクチンを打たなかったことで麻疹や風疹といった感染力の強いウイルスに罹患し、それを周囲にばらまいて被害を拡大させてしまう可能性を考えると、本当にワクチン接種というものを個人の主義主張のみで通して良いのか?公衆衛生的な側面を無視して良いのか?という議論はあるのですが、なぜか彼らの耳にそういう話は入っていかない構造になっているようです。これが彼らの言う「自由」なので仕方がありません。
(6)陰謀論

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「ワクチンは国家や医者・製薬会社の陰謀である」とする主張です。
ある意味、最大の強敵と言ってよく、これを主張する人間にいくら反証を提示しても「それは陰謀の一部だ」と解釈されてしまうのでもはや反証は論理的に不可能となります。
初代スマブラでハンマーとスターを両取りして調子に乗るやつがいますが、ほぼそれです。※2
※2 編集部注:スマブラ=任天堂の対戦側アクションゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』のこと。ハンマーとスターを両取りすると、無敵状態で一方的に暴れまわることができる。
例に漏れず、19世紀イギリスにもワクチン陰謀論は存在したらしく、「医師と国家が結託して危険な処置を庶民に押し付けている」という言説が出回っていたようです。今と一緒だな……。
現代ではどうなっているかというと、「ワクチンにマイクロチップを入れて管理しているんだ!」「ワクチンの特定ロットに毒を混ぜて人口を減らしているんだ!」と、低質なSFでも読んだんかと思わせるような言動を繰り返すことに定評がありますが、
「1億人以上いる日本人を誰がどうやって管理するんだ」「人口を減らして日本に何か良いことがあるのか」と聞いても、彼らの思考力には限界があるので支離滅裂な回答しか返ってきません。
ここまでくるともう科学では太刀打ちできない相手なので、そっと距離を取るのが吉というものでしょう。
というわけで以上、「やっきー反ワクチン三部作」をお届けしてまいりました。
第1回の記事で書いたとおり、今回の「反ワクチン」というテーマは宋先生と侃々諤々(かんかんがくがく)の激論の末に決定したものです。
より正確に言えば、2026年5月に札幌で開催された日本産科婦人科学会の講演終わりにパスタを食べながら決めたという経緯であり、よく考えればそんなに大した激論ではなかったような気もしますが、
私自身、ここまで真剣に「ワクチンデマ」のみに焦点を当てて記事を書き上げたのは初めてでしたので、全3回・10,000字超という重めの記事にもかかわらず非常に楽しく書くことができました。
他にも話題にのぼったテーマはいくつかあるので、少しずつ取り上げていきたいと思います。
本記事は3回の連載の3回目です。
1.反ワクチンビジネスの歴史を語る
2.反ワクチンビジネスで金儲けをする方法
3.今も昔も、反ワクチンの言説ってだいたい同じ(この記事)
















