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シリーズ:風疹のない日本をつくる ②

②なぜ「三日ばしか」が赤ちゃんに障害を残すのか――風疹と先天性風疹症候群の基礎知識

 

カテゴリー:妊娠

予防接種後で腕にばんそうこうを貼った赤ちゃん

2025年9月、日本はWHO(世界保健機関)から「風疹排除認定」を受けました。しかし、この認定は「風疹対策が終わった」という意味ではありません。排除状態を維持するためには、一人ひとりが風疹という病気を正しく理解し、ワクチン接種を続けていくことが欠かせません。
「三日ばしか」とも呼ばれる軽い病気である風疹が、なぜ赤ちゃんに深刻な障害を残すことがあるのか。なぜ全員がワクチンを打つ必要があるのか。この記事では、その理由を基礎から解説します。
(この記事はシリーズ:風疹のない日本をつくる 全3回連載の2回目です)

①祝!風疹排除認定 世代を超えて繋がれた「悲劇を繰り返さない」不屈の想い
②なぜ「三日ばしか」が赤ちゃんに障害を残すのか――風疹と先天性風疹症候群の基礎知識(この記事)
③風疹ワクチン、結局どうすればいい? ケース別Q&A完全ガイド

1. 風疹とはどういう病気なのか? 

一言で言えば、体にぶつぶつが出る病気です。患者のくしゃみの中のつばを吸い込んでしまったり、手に付いたつばが目や口などから体に入ったりして、うつります。これは、インフルエンザなどと同じ飛沫(ひまつ)感染ですが、風疹の感染力はインフルエンザの数倍強いとされています。

一般的には、風疹に感染後、約14〜21日の潜伏期間の後に、発熱、発疹、リンパ節腫脹(特に耳の後ろ)が出現します。ぶつぶつが顔と体の中心部に出て、数日で手足に広がり、3日から1週間くらいたつと治るので「三日ばしか」とも呼ばれています。風疹という病気の症状自体は比較的軽く、数千人に1人くらいは重症化することがありますが、さほど怖がる必要はありません。

現在の日本では風疹予防にもなるMRワクチン(風疹麻疹混合ワクチン)が、1歳と、小学校入学前の2回、定期接種に含まれています。ワクチンを2回打っていれば、ほぼかからないので、現代では子どもの風疹患者は少ないのです。

予防接種の予診票

2. 軽い病気である三日ばしかが、なぜ問題なのか? ~先天性風疹症候群の脅威~

風疹そのものは軽い病気といえます。ですが、妊婦さんにうつると、生まれた赤ちゃんに障害を残すことがあります。それが問題なのです。

風疹の免疫のない女性が妊娠中に風疹にかかると、お腹の赤ちゃんにうつることがあり、妊娠初期では70%程度、妊娠中期では50%程度の確率で赤ちゃんに障害が出ます。先天性風疹症候群(CRS:Congenital Rubella Syndrome)と呼ばれるものです。難聴(耳が聞こえない)、白内障(出産して数カ月してからなることもある)、心臓の障害などが代表的な症状です。

昭和40(1965)年に沖縄で風疹が大流行し、400人以上の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれました。そのときに、「頭上を米軍機が飛んでいてもスヤスヤ眠っている子どもがいる」ということで障害があるのがわかったという話があります。つまり、風疹という病気自体は軽いけれど、妊婦さんのお腹にいる赤ちゃんに障害が残ることが問題なのです。

体温計を持ってソファに座る妊婦さん

3. 繰り返された大規模流行

2004年、2012~2013年、そして2018~2019年、日本は風疹の大規模な流行がありました。「風疹の流行国」として、日本への旅行を控えるように勧告が出ていた時期もありました。特に2013年の流行では、1万4,000人以上の感染者と45人の先天性風疹症候群の赤ちゃんが報告されました。そのうち、少なくとも11人の赤ちゃんは合併症などによりすでに亡くなっています。残った子どもたちは、さまざまな障害を持ちながら頑張っています。

また、先天性風疹症候群の患者数に出てこなくても、妊娠中に大きな不安を抱えながら過ごした大勢の妊婦もいました。障害の可能性などから中絶という選択をした人の数も統計には出ないことも、忘れてほしくないです。実際には先天性風疹症候群で生まれた赤ちゃんの何倍もの中絶があるとも考えられています。

2013年には、当時私が勤務していた病院でも、妊婦の夫が2人、妊婦の実父が1人、風疹になり、流行を実感しました。赤ちゃんに障害が残る可能性のある人もいましたが、さまざまな検査の結果から赤ちゃんへの感染はないと判断され、無事出産に至りました。結果的に障害はありませんでしたが、「大丈夫と言われても生まれてみるまでは不安だった」とおっしゃっていました。

医師と相談する女性のイラスト
風疹ワクチンは妊娠前に接種しておくことが大切

私は、先天性風疹症候群になった赤ちゃんに会いに行ったことがあります。よく笑うし、元気いっぱいのかわいい子でしたが、音がほとんど聞こえていないとのことでした。母親は、上の子を産んだときに産科医から「風疹のワクチンをしたほうがいいよ」とは言われていたそうです。しかし、そこまで重要なことだとは思わずにいて、ワクチンを打たないまま次の子を妊娠し、風疹にかかってしまいました。「風疹のワクチンを打ってさえいれば……」と、おっしゃっていました。

なお、さまざまなお話を聞いた中で一番の衝撃だったのは、妊娠中の風疹感染がわかったときに、産婦人科医に中絶を強く勧められた妊婦さんが何人もいたことでした。専門家であるにもかかわらず、安易に中絶を勧めていた医師がいたことは、とても残念です。

風疹累積報告数の推移を示す折れ線グラフ
風疹累積報告数の推移(2010-2016年)国立感染症研究所HPより

4.先天性風疹症候群をゼロにするにはどうしたら良いのか?

風疹の流行を止めること、それしか先天性風疹症候群をなくす術はありません。そのためには全ての人が風疹のワクチンを一生で2回打っておくことが必要です。自分は妊婦さんと関わらないと思っていても、電車やバスの中で妊婦さんに接することはあるでしょう。

「妊娠」が身近ではない人でも、全員がワクチンを打って、風疹自体の流行を止めなければ、障害を持った赤ちゃんが産まれることは防げません。妊婦さんだけが対策をしても、流行が起こってしまうと、少数とはいえ先天性風疹症候群の赤ちゃんは生まれてしまいます。

そして、 流行を止めるには、全人口の95%程度以上の人が免疫を持つことが必要です。そうすれば、海外から風疹が持ち込まれたとしても感染の連鎖は止められることがわかっています。全ての人がワクチンを打てば、たとえ一部に免疫がつかない人がいても、流行にはならないということです。これが風疹排除の状態です。

風疹のワクチンが開発されたのは、風疹の流行を無くして先天性風疹症候群はゼロにするためです。事実として多くの国や地域で、風疹ワクチン接種によって流行はなくなっているのです。ゼロにできる赤ちゃんの障害だからこそ、世界中で風疹ワクチン接種が行われています。

合言葉は「風疹ワクチンで、先天性風疹症候群はゼロにできる!」です。これがようやく達成されたのが、2025年9月の風疹排除認定です。

額には行った排除認定証明書
WHOからの風疹と麻疹の排除認定証明書

5. 「排除」の状態を維持するためには何が必要か。

WHOからお墨付きをいただいた今、私たちは「安心の先にある警戒」(=排除できたからこその油断を避ける意識)を考えなければなりません。麻疹(はしか)が再流行している現状を見れば、排除の状態を維持することの難しさがわかります。

輸入例による小規模流行発生のリスク

日本国内に土着のウイルスはいなくなりましたが、世界にはまだ風疹が流行している地域が多くあります。海外旅行者や帰国者を通じてウイルスが持ち込まれる「輸入例」は、今後も必ず発生します。もし、国内に抗体を持たない人が一定数残っていれば、輸入例をきっかけに小規模な流行が発生するリスクは常にあります。

ワクチン接種率を高く保つこと

一番大事なことは、1歳と小学校入学前の子どもたちのMRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の定期接種を淡々と行っていくことです。MRワクチン接種率を高い状態で維持していけば、その子どもたちがおじいさん、おばあさんになる頃には、麻疹も風疹も根絶できているでしょう。

ワクチンを打った赤ちゃんの腕

それまでの間に流行を起こさないためには、すでに大人になった人たちへのワクチンの追加接種が重要です。追加的対策(第5期定期接種)で抗体保有率は上がりましたが、若い世代でも、1回しか接種を受けていない人や未接種の人が存在します。麻疹や風疹の患者がワクチンによって減ってしまうと、病気の恐ろしさを忘れてしまいワクチンを打たなくても良いと考える人が増えてしまい、逆にワクチン接種率が低下するということが起きてしまうのです。過去に学んで、病気の恐ろしさを伝え続けることで、風疹ワクチンの接種率を高く保ち続ける必要があるのです。

サーベイランス(調査監視体制)の維持

「排除」を認定された状態を維持するためには、一例でも風疹が疑われる患者が出た場合、保健所と医療機関が連携して迅速に検査をすることが大切です。感染ルートを特定する体制を緩めてはいけません。

6. 私たちが今できること、すべきこと

風疹排除認定は、医療従事者の努力、行政の対策、そして国民一人ひとりの協力によって勝ち取った「国民全体の勝利」です。この成果を未来へつなぐために、以下の行動が求められます。

1.  子どもの定期接種を確実に
現在の子どもたちは1歳と小学校入学前の2回、麻疹風疹混合(MR)ワクチンを接種します。これを100%に近づけることが、次世代の「空白」を作らない唯一の方法です。

2. 妊娠を希望する方と同居者の抗体価チェック
女性だけでなく、パートナーである男性や同居の家族も自身の抗体価を知っておいても良いかもしれません。ただし、2回のMRワクチン接種歴が確認されている場合は、必ずしも必須ではありません。心配な人は検査しましょう。

3. 情報をアップデートし続けること
「排除されたからもう安心」と思い込まず、正しい知識を持ち続けることが大切です。ワクチンによって病気が無くなることは良いことですが、一方で病気自体の怖さを実感できなくなってしまいます。歴史に学び、最新の知識も取り入れながら、病気から身を守りましょう。

脳内をアップデートするイラスト
科学が進歩する現代では、情報のアップデートも重要

先天性風疹症候群の赤ちゃんをゼロにするために

先天性風疹症候群は予防できます。できるのに、その手段がわかっているのに、いまだに悲しい思いをする人がいる。日本という国として一体どうなのでしょうか。すでにゼロにしている国がたくさんあります。みんながワクチンを打って、先天性風疹症候群の赤ちゃんをゼロにしましょう。

では、いざ自分自身や家族が風疹ワクチンを打とうと思ったとき、実際にはどうすればよいのでしょうか。打つべき人と打たなくてよい人の違いは?どこで打てて、費用はいくらなのか? 次回はそうした具体的な疑問に、ケース別のQ&A形式でお答えします。

 

(この記事はシリーズ:風疹のない日本をつくる 全3回連載の2回目です)

①祝!風疹排除認定 世代を超えて繋がれた「悲劇を繰り返さない」不屈の想い
②なぜ「三日ばしか」が赤ちゃんに障害を残すのか――風疹と先天性風疹症候群の基礎知識(この記事)
③風疹ワクチン、結局どうすればいい? ケース別Q&A完全ガイド

太田 寛

この記事の執筆医師

産婦人科医師

太田寛先生

産婦人科

千葉県成田市リリーベルクリニック勤務。

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