特集| 頼れる場所がある、ということ 〜公的支援のすきまを埋める現場から〜 (2)
D×Pユースセンター&食糧倉庫 見学レポート
特集「頼れる場所がある、ということ」の第2回は、大阪・道頓堀の一角にある認定NPO法人D×P(ディーピー)のユースセンターと食糧倉庫を訪ねます。
前回の記事でお届けしたユースクリニックは、若者がからだやこころ、性の悩みを気軽に相談できる場所でした。一方、今回訪ねたD×Pが向き合っているのは、親や家庭に頼れず、明日のごはんにも困るような状況にある若者たちです。
望まない妊娠や性被害の背景には、経済的困窮や家庭の問題が隠れていることが少なくありません。産婦人科の診察室からはなかなか見えにくい若者たちの現実。
その一端を、現場レポートからお届けします。
「ユース世代を孤立させない」をコンセプトに様々な活動を行っている認定NPO法人D×Pを訪問・見学し、代表の今井紀明さんに、阪南中央病院 産婦人科の稲垣 聖子先生がお話を伺ってきました。
ユースが充電できる場所
道頓堀のグリコ看板前(通称グリ下)から徒歩5分、観光客で溢れ返る通りの一角にD×Pのユースセンターがあります。室内は木のぬくもりを感じられる落ち着いた雰囲気。キッチンが併設されており、開所日には約50食分の食事を提供。中央の大きなテーブルで食べることができます。
壁際に設けられた階段風のスペースは道頓堀沿いをイメージして作成されたそうです。各自が思い思いの場所に座って、くつろげる作りになっており、たくさんのぬいぐるみやクッションのほか、本や漫画もずらりと並んでいます。

中央はロフト状になっており、1階部分はテレビゲームコーナー。さらには、メイクコーナーやTikTok撮影コーナー、ピアノやギター、オセロやけん玉までそろっています。このようにユースセンターには、1人でも、友人とでも、若者が自由に安全に過ごせる工夫がちりばめられています。

週2日はユースセンター開所、週3日は個別面談・同行支援
週2日、16〜22時にユースセンターが開所され、13〜25歳の若者たちが、安全な場所で食事を摂ったり、仮眠をしたり、それぞれの方法でエネルギーを蓄えることができます。ユースセンターには、社会福祉士や精神保健福祉士、教員免許など専門の資格を持ったスタッフが常駐し、生活や仕事のことなどを相談できます。
込み入った相談や、生活の立て直しのための支援を希望する若者には、開所日以外の週3日で個別面談を実施。利用者本人の気持ちの受け止めや状況のヒアリングを行い、必要があれば役所や病院への同行支援も行っているとのことです。

D×Pが取り組む社会課題は、ユース世代(13〜25歳)の孤立
学校と家庭が生活空間のほとんどを占めるユース世代は、不登校、中退、家庭内不和、経済的困難、いじめなどをきっかけに安心できる場や所属先を失い、簡単に孤立してしまいます。虐待やいじめなどの過去の経験から人と繋がることへの心理的なハードルを感じていると、さらに孤立が深まるといいます。
「グリ下」に集う若者がどのような経験をしてきたか
・親から暴力を受ける
・きょうだい、親族から性被害を受ける
・親、きょうだいから経済的な搾取を受ける
・親が自分の抱えるしんどさを見ようとしない
・親自身がしんどそうで、自分のことは自分でなんとかするしかないと思っている
・学校でいじめ、性暴力を受ける
・上記のようなことを先生に伝えても何もしてくれなかった経験がある
・問題行動として判断され、学校を退学になる など・・
子ども時代に、もっとも身近な大人である親に頼ることができず、親族や学校の先生などからもケアされる機会がなければ、社会に出て何かに困っても、誰かに相談したり、頼ったりという選択肢が浮かんでこないことは想像に難くありません。

様々な背景を持つユースが、まずは暖かい場所でお腹が満たされ、安心して過ごせる。自分の状態や気持ち、権利が尊重される。その上で、自分のこれからについて一緒に考える人と繋がることができる。
そんなユースセンターは、場所非公開で開所されていますが、グリ下に集う若者同士の口コミで、2023年6月のオープンから7,000人以上が利用。現在も利用者は増え続けているそうです。
ユース世代(13〜25歳)のLINE相談「ユキサキチャット」
D×Pではユース世代を対象に平日10〜19時でLINE相談「ユキサキチャット」を実施しています。登録者数は19,000人以上。多くは連携先のNPO法人や、学校、病院などからの紹介です。
相談内容の多くは経済的困窮などの生活相談だといいます。「親からの経済的支援が期待できない状況で学費と生活費を全てアルバイト代で賄っていたが、体調を崩したことをきっかけに困窮してしまった」「親に奨学金を使い込まれている」など、親の生活も苦しい中で、そのしわ寄せが子どもに直撃してしまう現状があります。

中には、「親には一定の収入があるが進学費用を出してもらえず、親の収入のために奨学金の申請も通らない」というケースも。「親が子どもをケアしない」ことを想定していない社会から、こぼれ落ちていく若者の姿が垣間見えます。
定期便での食事の支援、困ったときの現金給付
ユキサキチャットで繋がった若者が支援を求めた場合、相談員がオンラインで面談を行います。保護者など経済的な頼り先があるかどうか、貯金や借金の状況、公的料金滞納の有無などを聞き取ります。支出の見直しや収入確保のための転職・アルバイト探し、利用できる公的支援や奨学金の申請などを相談、検討しつつ、必要に応じて迅速に現金給付や食の支援をしているそうです。
昨今の物価高も相まって、食の支援や現金給付を求める声は増える一方。2024年度は10万食以上を発送したそうです。D×Pに食事の支援を希望してくる若者の約2人に1人(48.2%)が、「ごはんを食べない日がある」と回答しています。

支援の基本パックは30食分の食事と2kgのお米。驚いたのは、一律に同じものを送るのではなく、利用者の体調や苦手な食べ物、調理器具の有無などをチャットで聞きとり、利用者ごとにカスタマイズしていること。例えば炊飯器のない家には、お米ではなく、レンジ加熱で食べられるパックごはんを送っています。
食料のほかに、マスクや生理用品、シャンプー、歯ブラシなどの日用品も、必要なものがあれば送付するそうです。初回の送付時は手書きのメッセージと、騙されないための教科書が同梱されています(写真参照)。

こうした小さな、でも大切な一手間が、ギリギリの状態にいる利用者の心を励まし、「あなたを大事に思っているよ」「また頑張ろう」と背中を押すのだと思います。
各団体との連携・国や自治体への働きかけ
ユキサキチャットでは、より効果的な支援に繋げるために各団体との連携を実施しており、NPO/支援団体の連携先は146団体、自治体の連携先は35組織に及びます。
また、現場で得られたユース世代の声を集め、NPO単体では実現し得ない公的支援の充実を目指して国や自治体へ働きかけているそうです。
経常収益の8割以上が寄付金
様々な活動を行うための経常収益のうち、80%以上が個人もしくは法人からの寄付金です。中でも個人の月額寄付サポーターの多さは目を惹きます。2024年度は3,462人が月額寄付サポーターとして活動を応援しています。
今後の展望としては、就労トレーニングができる仕組みづくりや、運動・音楽などの「部活動」的なことを一緒にできる施設、ショートステイや宿泊ができる施設など、若者の希望により細かく対応できるような機能を充実させていきたいとのことです。
編集後記
想像していたよりもずっと利用者目線の、こまやかなサービスが行われていることに驚きました。産婦人科では日常診療の中で、意図しない妊娠や性感染症に悩む若者と向き合う機会が少なくありません。妊娠を継続する場合は子どもをきっかけに社会的支援に繋げられることもありますが(それも全く十分ではないと感じていますが……)、人工妊娠中絶を選択した成人の場合は、本人の強い希望がない限り、公的サービスに繋げるすべがほとんどありません。

医療機関として患者さんの背景にある大きな課題を認識しつつも、医学的な問題が解決すれば関わることが難しくなる現状に日々、歯がゆさを感じていました。
こういった、公的サービスにつながりづらい、支援の届きにくい、あるいは支援を忌避する若者たちと、「ごはん」「休憩」「LINE相談」などのゆるい入り口からつながり、彼らが求めるタイミングで求めるものを提供できる支援が、本当に有効な支援だと感じました。今後、公的、民間含め、ユース世代へのサポートがより広がることを願ってやみません。
D×Pへの寄付はこちらから
https://www.dreampossibility.com/supporter/
■認定NPO法人D×P(ディーピー)
不登校や経済的困窮など、様々な困難を抱える10代を支援する団体。LINE相談を通じた食事・現金支援などの緊急サポートから、定時制高校内での居場所作り、仕事体験の提供まで幅広く展開。孤立しがちな若者が、境遇に関わらず希望を持てる社会を目指し、全国で活動している。
■今井 紀明(いまい・のりあき)
認定NPO法人D×P理事長。1985年札幌生まれ。高校時代のイラク人質事件後のバッシングと克服を背景に、2012年認定NPO法人D×Pを設立。経済困窮や家庭事情で孤立する10代を支えるため、登録者7,700人超のLINE相談「ユキサキチャット」や定時制高校での居場所事業を展開。若者の声を聴き、社会へ届ける発信に注力している。
2回にわたる特集「頼れる場所がある、ということ 〜公的支援のすきまを埋める現場から〜」、で訪ねた2つの現場に共通していたのは、若者が自分の意思で立ち寄れる、ハードルの低い入り口を大切にしていること。そして、公的支援だけでは届かないすきまに、手を差し伸べ続けている人たちの姿でした。
SRHRや女性の健康を支えているのは、医療だけではありません。安心して相談できる場所、あたたかいごはん、話を聞いてくれる大人の存在。そうした土台があってはじめて、自分のからだと人生を自分で選んでいけるのだと改めて感じます。
この記事は、「頼れる場所がある、ということ 〜公的支援のすきまを埋める現場から〜」2回シリーズの2回目です。
第1回の記事はこちら。
ビバ!ユースクリニック!まちの保健室、全国でひろがり中

















